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広島高等裁判所 昭和32年(ツ)22号 判決

上告人 控訴人 参加人 中山源蔵

被上告人 被控訴人 原告 足立義隆 被告 山根まつ

主文

原判決を破棄する。

本件を鳥取地方裁判所に差戻す。

理由

本件上告理由は別紙記載の通りであり、これに対する当裁判所の判断は次の通りである。

上告人の主張によれば、上告人は昭和二一年一月四日被上告人山根より本件公正証書に表示された本件債権を譲受け、譲渡人たる同被上告人は同年二月四日及び同年六月六日債務者たる被上告人足立に対し右債権譲渡の通知をしたというのである。そして本件記録によれば、被上告人足立より被上告人山根に対する本件請求異議の訴が提起された日は同年一月六日であり、その訴状が被告たる被上告人山根に送達された日は同月二十八日である。上告人は右債権譲渡通知のなされるまでは、債務者たる被上告人足立に対し本件債権を請求し得ないのであるから、それまでの間は右債権譲渡は譲渡当事者間において相対的な効力を有するに止まる。従つて、上告人主張の事実関係によれば、被上告人足立に対する関係においては本件債権の譲渡は同被上告人に対し債権譲渡の通知のなされた時すなわち本訴係属中に完全にその効力を生じたものといわねばならぬ。ところで、請求異議の訴は債務名義に債権者として表示せられた者又は執行文に債権者の承継人として表示せられた者を被告として提起せられるのを原則とするが、その債務名義に表示せられた債権につき承継のあつた場合には、未だその承継人において執行文の付与を受けていなくても、その承継人を被告として請求異議の訴を提起し得るのである(参照大審院昭和六年(オ)第二六九四号昭和七年一一月三〇日言渡判決)。上告人がその主張の通り本件公正証書に表示された債権を本訴係属中譲受けたものとすれば、上告人は本件債権の不存在を理由とする本件公正証書に対する請求異議の訴の被告たる適格を有するに至つたものであつて、若し被上告人足立において欲するならば、民事訴訟法第七四条により上告人に対し本件請求異議の訴の引受を申立て得ることは明らかである。右第七四条にいわゆる訴訟の目的たる債務は、請求異議の訴においては排除を求められている債務名義の執行力及びその債務名義に表示せられた給付請求権を指すものと解すべきであるから、上告人の主張によれば、上告人は本件請求異議の訴の係属中に本訴の目的たる債務を承継することによつて、本訴の被告たる地位を重畳的に承継したものといわねばならぬ。そして、民事訴訟法第七三条、第七四条は共に訴訟承継に関する規定であつて訴訟の目的たる権利又は債務の承継人及び相手方に対し既存の訴訟状態を自己のために利用する機会を平等に与えるために設けられたものであるから、右各条文に訴訟の目的たる「権利の譲受け」或は「債務の承継」と規定されているのは通常の場合を例示したのに止まり、共に広く訴訟の係属中何れか一方の当事者の訴訟上の地位につき承継のあつた場合を意味するものに外ならない。従つて訴訟の係属中その訴訟の目的たる債務を承継した者もまた同法第七三条により同法第七一条の参加をなし得る(参照最高裁判所昭和三〇年(オ)第二一八号昭和三二年九月一七日言渡第三小法廷判決)のであるから、上告人が同法第七一条により本件請求異議の訴に参加し得ることは明らかであり、上告人の本件訴訟参加の申立は適法であるといわねばならぬ。右と異なる法律上の見解の下に、これを不適法として却下した原判決は違法であつて破棄を免れない。

よつて、民事訴訟法第四〇七条を適用して主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 岡田建治 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

上告人中山源蔵の上告理由

一、左記に依り第一、二審の判決は民事訴訟法第七拾一条民法四百五条同四百二拾三同九拾三条同九拾五条同百拾九条同一百二拾三条同一百二拾五条商法第五百三条、商法施行法百拾七条商法五百拾一条民訴三百二拾六条出資の受入預り金及金利等取締に関する法律六条同五条利息制限法附則四項各前記法律をかえりみず特に民訴七十一条の如きは其の適用をあやまりたる齟齬の判決なりと言うも過言にあらずと信じます。

一、第一、二審判決に被告より原告に対する強制執行は之を許さない。

上告人は被上告人山根まつより債権と共に債務名義に依る国家権力行使の出来る権利の譲渡を受けたる事は本件当事者三名共争いない所である。

右判決は上告人が被上告人山根まつより譲受たる債務名義に対する執行禁止を被上告人山根まつに命ずるは、此の判決の既判力が上告人の現有する此の債務名義の執行力に及ぶ物かしからずか判だんに苦しむものにして、片はら第二審の判決理由の内に控訴人の前示債権の主張や実現が妨げられるという事は考えられないと言うも上告人は現在現実に此の債務名義を以て被上告人足立義隆、訴外由井民二、奥田辰三郎、中西冬雄に対し強制執行中なるも右判決公正証書弐九、五六壱号執行正本に基く執行は之を許さぬとの判決が確定するなれば是が一時的にも執行力を失い之と同時に執行の時期もおくれ取立回収の機会を失い上告人の多大の権利を害される事となるは言を待たず上告人の参加申立を第二審が却下するに当り参加人に対し判決の解しやくに苦しまぬ様明りように本件係争の債務名義の執行力は許可不許可は上告人に対しては及ばずと有れば上告の必要もうすらぐが判決は裁判所の物ならずして判決を受けた者の所有なるを以て一般社会通念を以て一目りようぜんと判明するをしとうとする。

第二審判決理由に上告人の権利を侵害されることある場合にも当らないと民訴七十一条前段の適用外だとの言いなるも前記の様に実害あるは当然であるに是はどう言う判断なのか了解に苦しみます。

第二審事実摘示の通り被上告人山根まつは本件当事者として口頭弁論に出頭せず答弁書準備書面も提出しないと言う如く山根まつは本件訴訟の勝敗が自己に利害無きを以て事実の答弁もなさず欠席判決に等しく法的に敗訴となる様被上告人足立義隆と馴合訴訟をしたるやの感あり上告人の当事者参加は不当の理由を以て却下されたり。

被上告人足立義隆と上告人との間には債権債務が有し事は双方争いない所なるに現存債務の有無も取調べもせずなにはともあれ身の人たる物に対しては国家が保護すべき物なり。

第二審判決理由に於て訴訟物は債務名義の執行力排除する異議権であると解するを相当とすると言うも判決全体より見るも金銭消費貸借であつて売買代金請求権なき物だとする事を前提としての請求異議にして本来は訴訟名も売買代金請求無効確認の訴に外ならず執行を許さずとするは無効確認の副産物なりと言うが相当なり。其の理由は被上告人足立義隆は売買代金請求権を非認し無効取消を争つて居る。

売買代金無効確認か請求異議事件とどちらとするも此の判決の結果第三者たる上告人の権利が害される事は論を待たず

第二審判決理由に控訴人が前記公正証書に表示された債権を本訴提起前に譲渡を受けたると言う事は民訴七十一条の後段に言う訴訟の目的である権利の全部又は一部を譲受たる場合に該当しない事明りようであると言うが当事者の内部関係に於ては訴訟提起前たる昭和三十一年一月四日附なるも債務者に通知したるは昭和三十一年二月四日及昭和三十一年六月六日にして訴訟提起後にして債務者に債権譲渡の通知して初めて正当譲受人の資格を得是に依り債権の請求の権利が初めて生れる物なり。

参加の申出の趣旨は訴訟提起前に権利を得たる者が申出るを普通原則なるも他人間の訴訟の目的物を訴訟中に譲受たるは他人間の訴訟に仲間入をする事を予想しての事なるを以て参加申出を許さぬのが相当だが何等参加申出を許可しても差支無しとの見解の基に此の申出を許可する法律が定められたる物なり。

依而民訴七十一条は訴訟提起前後を論ぜざるに二審裁判が之を気にする所が不解でなりません。

二審判決理由に権利の侵害される事がある場合にも当らないとは民訴七十一条の前段を指して言う事なるも前記の通り上告人は権利の侵害を受けるおそれ充分あり之は訴訟の目的の権利の譲渡も受けず且又他人間の訴訟の結果自己の権利を害される事ない時の事にして本件上告に対する不当見解と思います。

民訴七十一条後段に訴訟の目的物が全部又は一部が自己の権利なる場合は只単に自己の権利だと主張するのみにて権利の侵害の有無が参加申立の条件で無き事は明らかなるは七十一条原文を読めば普通人のうなずける所である。

当事者参加の申出は本訴訟の種類か、給付、確認、形成の何れの訴訟であつても差支なきは民訴七十一条の規定何等制限をなさず同法の法意も又同趣旨なるは簡易に考えらるる所であります。

当事者参加申立に対し従来の原被告は異議の申立の出来ざるは民訴六拾六条乃至六拾八条の準用かないからである。

第一審二審判決摘示の通主張立証を援用致します。

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